深夜1時。浜松市にある治一郎の工場を出たトラックが、羽田空港近くの拠点に到着します。
荷を下ろし、店舗ごとに振り分けたら、別のトラックへと積みこんでいきます。朝8時までにすべての配送を終えなければなりません。
その流れを止めずに守ってきたのが「サンワNETS」の佐々木慎さんです。「私たちが運ばなければ、お客様の手元へは届きません。重要な仕事だと思っています」。作る人がいて、売る人がいる。そのすべての間を確実につなぐ仕事。欠ければ成り立たない大事な存在が配送です。
細心の注意を払って運ぶ仕事
サンワNETSが治一郎の配送を手がけるようになったのは2016年ごろ。治一郎が首都圏へ進出するタイミングでした。扱うのは、バウムクーヘンやビスコットといった焼き菓子から、ロールケーキやプリンといった生菓子まで。繊細な形をしている商品は、わずかな揺れや傾きが、状態を左右します。
「正直、最初の数年は、破損が多かったんです。納品先の店舗で開けてみると崩れてしまっていたり、傾いてしまっていたり。ドライバーたちはかなり注意して運んでいたんですが……」。
破損が起きると、まず疑われるのは配送です。「どうしても、最後に触ったという立場ですから。原因を探って解決しなければいけません。車の揺れなのか。積み方なのか。それとも、そもそも商品の製造工程に原因があるのかという可能性もあります。『どの段階で、何が起きているのか』を知る必要があるんです」。

根気強く、原因を探っていく
配送を始めた当初、どうしてもいくつかのロールケーキに問題が出ていました。到着先の店舗で開けてみると、側面がケーキ箱に付着してしまっていたのです。
「ロールケーキは、基本的に箱との間にほとんどすき間がなく、動かない状態で包装されています。それがどうして付着してしまうのか……。自分なりに箱を動かしたり、ひっくり返したりして検証したんですが、どうやっても側面が崩れることがなかったんです」。
治一郎の社員と共にあらゆる可能性を考え、遡って調べていくことに。配送工程のポイント、荷積するタイミング、工場集荷時や店舗到着時と、あらゆる段階で写真を撮り、原因を探っていきました。結果、包装の工程で、力加減によって側面が押されてしまうことがあり、ロールケーキに付着することがわかったのです。包装チームが改善することで、その後のロールケーキの配送に問題が起きることは、ほとんどなくなりました。
「チョコレートケーキのコーティングの一部が、どうしても剥がれてしまうこともありました。それも配送中の状態を逐一チェックしつつ、商品の一つを運ばずに冷凍庫に保存しておいたんです。時間が経ってから見ると、やはり剥がれてしまっていた。この場合、運ばなくても剥がれるということですから、製造工程を見直してもらったんです」。
製造チームがすぐに確認をすると、コーティングする際の温度に原因がありました。本体を冷凍庫から出して少し時間をおいて作業した場合、小さな結露が発生し、時間が経つとともに剥がれてしまうことがわかったのです。
「きちんと原因を究明できれば、運ぶ側も、作る側も、売る側もみんなが安心してお客様へお渡しできます」。
美しい納品が、商品を守る
「もちろん、私たちの不手際のこともあります。年末の忙しい時期、トラックいっぱいに詰め込んでいた商品が、荷崩れを起こしてしまって。プリン60個が入ったコンテナを落としてしまいました」。
パッと見ただけでは大丈夫な状態でも、時間とともにカラメルが浮いてきたり、崩れてしまうことがあります。すぐに、治一郎の物流責任者に連絡し、新しい商品を手配し直してもらわなければなりませんでした。
「慣れが出やすい仕事だからこそ、基本に忠実にやることを大切に。ドライバーたちには『水平垂直で扱うこと』を毎日繰り返し言い続けています」。
さらに、佐々木さんが大切にしたのは、店舗に納品する際の状態。商品が入った段ボールを種類ごとに分け、きちんと角を揃えて積むように徹底したのです。
「これは先代の上司から教わったことです。角が揃っていれば、積み重ねた際に崩れたり潰れたりしにくいんです」。
とはいえ、言い過ぎればやる気を削いでしまうことも。頭ごなしに言うのではなく、その日の作業を一つずつ確認する。その積み重ねが、少しずつ現場の意識を高めていくことにつながっていきました。

治一郎のパートナーとして
治一郎の店舗への納品は、早朝がほとんど。店舗スタッフと顔を合わせる機会はありません。
それが、ある年の大晦日。
サンワNETSのトラックは、通常の倍以上の量を立川の店舗に納品しました。納品時にふと見た冷蔵庫のホワイトボードには「いつも、丁寧に運んでくださってありがとうございます」の文字があったと、嬉しそうに教えてくれます。
「正直、感動しました。ドライバーって、感謝される仕事ではないですから……」。
売り手と運び手。おいしいものを美しい状態で届けたいという気持ちが、通じ合っていた出来事でした。
「お客様は、店舗からさらにご自宅まで治一郎のお菓子を運んでいきます。満員電車に揺られることもあるでしょうし、車で移動することもあるでしょう。どんな環境でも、店舗で見た状態のまま、ご自宅で楽しんでいただきたいという気持ちは、作り手も売り手も、私たちも同じなんです」。
物流会社としてだけではなく、治一郎のパートナーとして、仕事に向き合う。佐々木さんの真摯な姿勢は、言葉の端々から伝わってきます。その姿勢があるからこそ、今日も治一郎のお菓子は美しい形のまま、店頭に並ぶのです。
